第5回公演 『降りる人―時代』

         ありがとうございました

              代表 野村 勇


果てのないものに向かって

2019年1月19日(土)、第5回公演を行うことが出来ました。パンフレットにも書かせていただきましたが、第5回公演を行うことは、一つの「目標」でありました。

第一次劇団こむし・こむさは、第4回公演を最後に自然解散の状況になりました。それから40数年後、昔の仲間が再び集まって結成された第二次劇団こむし・こむさ、……今度は第4回で終わらせず、その先まで歩んでいきたい、そう考えてやって参りました。

まずは、この、一つの「目標」を達成できましたのも、私どもの芝居に足を運んでくださる方々のお蔭と思っております。

第3回公演までは日暮里のd-倉庫で作品を発表していました。第4回公演から両国のシアターXで上演することが出来ることになり、今回で2作品目ということになります。

前回、『水の中の塔―東京スカイツリー異聞』については、シアターX発行の「批評通信」に、ミムラショウジ氏が批評を書いてくださいました。

その中の一節を、少々長くなりますが、ご紹介させていただきます。

<『水の中の塔』は1945年3月の墨田区周辺を襲った東京大空襲の記憶がテーマ。劇団員にとって親や祖父母の世代が体験した記憶である。その記憶を忘れないことが現在の彼らの「表現しなければならないこと」だった。

 プロを自任する劇団はどれだけ「今、表現しなければならないこと」に想いを尽くしているだろうかと思う。確かに、こむし・こむさの俳優の演技やドラマトゥルギーは未熟。けれども、仲間内で互いの芝居を観てあげることが慣例のようになっているプロを自任する演劇業界人に対して、こむし・こむさの活動はしがらみから自由であるがゆえに外の世界に開かれている。「表現したいこと」を「観てもらいたい」人に素直に見せる。演劇に対して本来的な向き合い方ができている。>

ミムラ氏の批評は、私ども劇団の、「今、このとき、表現したいこと、表現しなければならないことの演劇化」という共通認識を深く汲み取ってくださったものでした。

しかし、ミムラ氏は、私どもの劇団の弱点をも鋭く指摘していました。それは、「確かに、こむし・こむさの俳優の演技やドラマトゥルギーは未熟。」という言葉でした。

私はこの言葉を、まっすぐ受け止めなければいけないと強く感じ、第5回公演に臨みました。

さて、そうして、『降りる人―時代』という作品をシアターXの舞台にかけたわけですが、はたして、私どもの未熟な部分は、どれほどに改善し、前に進むことが出来たでしょうか?

その答えは、『降りる人―時代』をご覧下さった、お一人お一人の中に在るのだと思います。

その意味で、毎回、お客様にお願いしているアンケートに書かれたお言葉の一つ一つが、答えを解く鍵になります。
アンケートは、今回も100人以上の方にご協力いただくことが出来ました。またメールや電話でも、ご感想をお寄せいただきました。

実際に教職に就かれている方の、こんな言葉もありました。

――現場は公務等も含めて大変ですが、目の前の子どもたちと繋がり、毎日を共に過ごすために頑張れる自分がいます。

「繋がり」といえば、こんな風に書かれている方もおられました。

――現代の情報社会における、人との向き合い方、つながり方について深く考えさせられました。また、普段から、「人と人とがつながる場」をつくっていきたいと考えているだけに、目の前・周りに居る人とのつながり方、今後もしっかり考えていきたいと思いました。


「情報社会」について、このようなご意見を寄せてくださった方もいます。

――ITには確かに負の側面も大きいですが、ITがあることで初めてできる「つながり」もあるので、うまく使うことができれば、多様な人間関係を構築できる場合もあります。

その一方で、別の感じを抱いている方もいます。

――今の世の中携帯がゆきわたって、どこでも皆携帯を見ていますが、私は何かそんな現状に納得いかないものを感じています。今の子供達は便利な反面、携帯に自分の時間を奪われていると感じてなりません。

「20歳の女性」と書いてくださった観客のご意見は、また違います。

――私は、インターネットでつながっていない時代を生きていません。その時代の一人としては、けっして人間関係がうすいなどと思ったことがないです。むしろ、すぐに友達・家族に相談できる環境です。

「組織」と「個人」の問題に言及されている方もいました。

――組織の中での個人のあり方という普遍的なテーマで、感情移入しやすかった。自分自身も同じような問題に直面しており、色々と考えさせられた。

――実際の教育委員会とは異なるのかもしれませんが、いつの時代も、すじの通らない事がありますね。私も一社会人として日々闘っています。

主人公の女性副校長については。

――皆、理不尽さを抱えながら生きている―という言葉が、とても共感できました。

――自分の信念を貫くために降格をも辞さない副校長に感動した。自分にはできないことだとは思ったが、多少は信念を貫く勇気も必要だと感じた。

「降りる」ということについて、こんなお言葉も。

――降りる人…人には降りているように見えても、本人(教頭先生)は降りてはいない…

――現代や社会に向けてメッセージを発するという演劇の役割に、きちんと向き合っておられると思いました。「降りる」ことに対して希望を持たせていただき、静かな元気が出ました。

ご感想・ご意見の一部を紹介させていただきました。当たり前なことですが、ご感想は一色ではなく、多岐に亘っておりました。

(あらかじめ、引用させていただくお許しを得ていませんでしたが、ご寛容のほどお願い致します。)

 公演の4日後、反省会をもちました。

アンケートもその場で1枚1枚読ませていただきました。

皆さまから沢山のご意見・お言葉をいただき、多少前進した部分はあるものの、「確かに、こむし・こむさの俳優の演技やドラマトゥルギーは未熟。」というミムラ氏の指摘は、私どもにとって、まだまだ心して克服していくべき大きな課題であると感じました。

いや、演技もドラマトゥルギーも、果ての無い課題なのかもしれません。

その、果てが無いと思われるものに向かって、第6回公演そして、その先へと歩き続けていきたいと思っております。

   (野村 勇のブログ「こむし・こむさの日々」より)