リサ(リーガルサービス)
|
《プロローグ》 昨年9月から今年1月に掛けて、6回程、弁護士会事務局の部屋で真剣にコンピュータに向かっている10数名の集団が現れたが、何人かの方は現場を目撃されたかもしれない。 松戸も含めた全事務局と、法律相談センターの担当者を対象としたリーガルサービス割振研修が実施されていたのである。 これは、10年来の念願の実現であり、当会にとって重要な一歩である。しかし何よりも、私市川にとって、大きな出来事であった。 《リーガルサービス割振はどこから降ってくるか》 2月定期総会で、次年度のリーガルサービスの割振一覧表を配布するようになってから、何年が経過しただろうか。 定期総会の会場入口で出席の署名をすると、その代わりに(とでもいうように)事務局から配布される各人毎の次年度の一覧表は、学生時代の通知書(通信簿)のような、少しばかりドキドキするような感覚がないでもない、ちょっとしたイベントである。 それもその筈。次年度の、いつ、当番が回って来るのか、国選は何件担当するのか、法律相談センターにはどことどこに行くことになるのか、この一覧表にとりあえず、全てが書かれている。次年度の当該会員の運命(時間拘束)に、一定の影を落とさざるを得ない行事なのである。 定期総会会場では、親しい会員同士、この担当を互いに交換し合う図が、あちこちで展開される。国選の見返りに、弁護士会相談1回では少ないかとか、土曜の当番は船橋法律相談センターの土曜と見合うかなとか、いろいろ考えさせられる。 しかし、このリーガルサービス(以下略してリサともいう)の割り振りが、一体どこで、どのようになされているのかを知っている人は少ない。 割振に関する苦情を弁護士会に言ってくる会員がいる。弁護士会が最終責任を負っているのであるから、弁護士会を相手にしていれば、当面間違いはない、と考えたのだろうか。なぜか法律相談センターに、国選を含めた全部の変更依頼をしてくる会員もいる。中には、ここぞと睨んだ会員に、俺だけ不公平に扱っただろうなどと、ちょっと筋違いの苦情を言って来た会員も、以前は、いた。 これほど各会員の日常の仕事に直結しているリサの割振であるにもかかわらず、その実態が、ほとんど知られてこなかったのは驚きである。 《リーガルサービス割振の実態》 2003年度の場合、222名の会員を対象に、合計5234コマのリサが割振られた。(222名には、松戸地区が入っていない。いわゆる丸投げによって独自の割り振りをしているからである。また、65歳以上の会員や病気などの事情のある方、また執行部など、正当な理由で担当を希望しない会員が外されている)。 この5234コマには、当番、国選、自治体相談、各種の法律相談センターなどが含まれている。法律相談センターは、本庁の他、茂原、船橋、銚子、鴨川、佐原、成田、木更津袖ヶ浦、東金の各センターがあり、いずれも希望制である。 もちろん、会員の中には、希望制である各地の法律相談センターを担当していない会員もいるし、一部の法律相談センターだけ登録している会員もいる。当番、国選、自治体相談は義務制などとされながらも、たとえば、佐倉の会員は従来は国選は担当していなかった(地裁佐倉支部から独自に回ってきた。次年度は佐倉の会員も千葉の国選を担当することとなったが)。木更津や八日市場の会員は、国選は裁判所から直接委嘱、また当番は担当していない(当該地域の当番が来た際に、割振と別に依頼する態勢としている)。自治体相談は、地区によって、担当する自治体が区々である。昨年度まであった郵貯暮らしの相談センター(希望制)は次年度からなくなった。 また、65歳以上の会員は、義務制も含めて、全てのリサの担当が任意となっている。 当初はこれらのリーガルサービスは義務制だったため、この割振作業も《義務負担割振》などと呼ばれていた。可能な限り希望制とすることとし始めたのは、ここ数年のことである。 これらの各人毎の担当関係データは、相当に複雑である。 単純に担当者数で合計コマ数を割ると、一人平均23コマ強があたる計算になるが、実際には会員によって合計担当回数に大幅な違いも生じる。 これらをコンピュータ処理するようになったのは、1993年度からである。つまり、コンピュータ処理は、次年で11回目ということになる。 それ以前は、弁護士会の事務局が、手作業で1年分のリサの割振作業を行っていた。当時は会員数が今の半分、コマ数が今の数分の1だったから出来たことかも知れないが、それでも最後の方は、いろいろな問題が明らかとなっていた。 同じ日に、1人の会員に複数のリサの担当を割振ってしまう、ダブルブッキング。これは、当該会員からの指摘を受けて修正したりした。しかし、修正できないのが、割振の偏り。ある自治体相談に、特定の会員ばかりに異常に多く当ててしまうなどの偏りは、会員同士の比較がないと分からないし、本人が、他の会員は別のリサをたくさん担当することになっているんだろうと考えて、納得してしまえば、表沙汰にはならない。 このような問題が指摘され出したのは、コンピュータ処理の数年前からであった。 しかし、では一体どのような解決策があるのかが見いだせないまま、時間だけが過ぎていった。 《コンピュータ処理のはじまり》 そんな中で発足したのが、コンピュータ委員会であった。91年秋からの準備期間を経て、92年に正式発足したコンピュータ委員会で、この問題に取り組んだ。 しかし、このような割振関係のソフトは、当時、全く存在しなかった。OS自体、今では当たり前のウィンドウズも、当時はマイナーなものがあるだけでほとんど実用されておらず、世はDOSの時代であった。 つまり、コンピュータ事情は、今とは全く違う時代のお話である。 割振は、一定の法則に従ってコンピュータを新たに動かすという点に、特徴がある。割振った結果の妥当性などは(ダブりや偏りなど)、データベースソフトや表計算ソフトなどで点検できるが、これらはいわば静的なソフトである。人間の指示に従ってデータを加工したり並べ替えをしたりして、結果の妥当性の点検作業などには大いに役立つが、その前提である割振のような動的な高度な作業はしてくれない。 そのため、割振をコンピュータ処理するためにはデータベースでもなく表計算でもない別のソフトが必要であった。 しかし、このような作業のための市販ソフトは、当時、全く存在していなかったのである。 そこで、素人が作成するフリーソフトを探した。そのころは、まだパソコン通信(イン ターネットと違って、サーバーを中心とした放射状の閉ざされたネットワーク)の時代であったが、そこで発表されていたソフト類の中で、唯一、当番医の割振ソフトというのがあった。しかしこれはごく単純に日を割振るだけもので、担当対象が人によって異なるという当会のようなシステムには全く対応していない原始的なものであった。 そこで、割振ソフトは、1から、自分で作るしかなかった。 そこで目を付けたのが、マクロである。 マクロというのは、まとまったソフトに付いている簡単なプログラム言語のことである。まとまったソフトというのは、たとえばワープロの一太郎とか、ワードとか、データベースの桐とかアクセスとかの、アプリケーションソフトと呼ばれているものである。これらのソフトは、何かを自動実行することは本来予定されていない。ワープロソフトはこれを使ってキー操作のままに文書を作成したり編集したりする「おとなしい」ソフトの筈である。ワープロソフトが、いきなり勝手に小説を書き始めたら、驚いてしまうだろう(ろくなものが出来ないだろうことは想像に難くないが)。ワープロソフトは、あくまでも人間の作業の補助的な道具なのである。 ところが、このような「おとなしい」ソフトでも、たとえば、作った文書の中の「申立人」を全部「原告」に置き換える《置換》という機能などは利用している人が多いに違いない。これは、文書の中を順番に検索し、「申立人」を発見したらこれを削除し、代わりに「原告」という単語を記入する、という作業を順次繰り返させているのである。 このような《置換》は、ワープロソフトの標準機能のひとつに収まっているが、このようなお仕着せの機能だけでは不足する場合がある。そのために、操作者から教えられた一定の手順を順次繰り返す「キー記録」などという機能も備えられている。 これはぐっと自由度が高くなって、操作者が行ったキー操作をコンピュータが記憶し、一定の命令によって同じ事を次々に繰り返してくれるというものである。インデントでなく、スペースの多用によって形を作ったような文書を渡された場合に、編集の前処理としてこのスペースを削除したりするときなどに、このようなキー記録機能を使ったりする人も多いのではなかろうか。 しかし、このようなキー記録機能にも限界がある。教えられた単純作業には向いているが、場合によって判断し、その結果によって作業内容を変更するような処理(分岐処理)は不可能である。つまり、判断をし、その結果によって手順を変えたりするようなまとまった作業をするには、プログラミングがどうしても必要になるのである。 この点を考えて用意されたのがマクロである。 プログラムは、コンピュータに仕事をさせるための命令であるが、これを1から書いていたのでは時間が掛かる。そこで、ワープロソフトやデータベースソフト、表計算ソフトなど、一定の機能を持ったアプリケーションソフトを使い、この存在を前提として、その機能を自由に次々に実行するような形式のプログラムを組めば、プログラミングの手間が相当程度省ける。基本的な機能はアプリケーションソフトが用意してくれているので、後は、これを利用する利用者の立場に立って、順次、命令を組むだけで、所期の目的が達成できることになる。ただし分岐処理などもできるよう、通常のプログラミング言語の機能も使えるようにしたい。このような考え方から用意されたプログラミング言語がマクロなのである。 では、どのアプリケーションソフトを使うのが良いのか。どのアプリケーションソフトのマクロが使いやすいか。それは、目的の作業との関係で更に詰めなければならない問題ということになる。 その結果、千葉県弁護士会の割振に使用するアプリケーションソフトとしては、表計算ソフトとデータベースソフトを一応候補に挙げたが、最終的には、表計算ソフトが使いやすいと判断した。その結果、当時市川が使用していたロータス123を利用することとした。 このソフトを使用し、各会員がどのリサに登録しているのか(義務制による登録と任意性による登録とを含め、また地域差なども考慮して)、最後に担当したのはいつか、それぞれのリサの割振をどれだけ担当することになったのか、などの各会員のデータを管理する部分と、これらに基づいてふさわしい会員を選択する命令書部分、そして決まった結果が記入される作業場部分の、大きく分けて3つの部分から、このソフトは作成される必要があった。 DOSの時代の悲しさか、当時は、1つのファイルに1つのワークシートしかもてなかったため、これら3つの部分は、1つのワークシートの左上から右下に順次並べる形で作成した(列や行の非共有)。これは、ある部分の改良のために行う「列の挿入削除」や、「行の挿入削除」によって、他の部分が影響されないためという、マクロ作成上の不文律に従ったものである。 このようにして、ごく簡単なモデルを92年の夏に作成した。 これをコンピュータ委員会(メンバーは市川の他、福田光宏・渡会久実・高山光司・高綱剛の各会員)に参考資料として提出したところ、これは良いということになり、基本的にこれを拡充して、当会の実際のリサの割振に使えるようにすることになったのである。 当時は、OSはDOSの時代である。CPU(コンピュータのエンジン部分)は、自分の持っていたコンピュータがようやく386の20MHZというものであった(20MHZは、1秒間に2000万回作業するということ。この速さの他に、一回にいくつの作業を同時にこなすのかとか、仕事の省略、作業場の広さ、倉庫の近さなども全体の速さの要素となる)。 弁護士会では、未だ286のコンピュータを使用していた。自分のコンピュータで、一件7秒程度で処理していたのに、これを弁護士会のコンピュータにやらせると、何十秒も掛かってしまい、コンピュータが止まってしまったのではないかと慌ててしまった、などということを昨日のことのように思い出す。 CPUの速度は、その後何十倍も何百倍も速くなり、これに対応した使いやすいOSやアプリケーションソフトが当たり前になった。ロータス123も、1つのファイルに複数のワークシートをもてるようになり、マクロの見通しも格段に良くなった。 このようにして10年が過ぎたのである。 《ソフトの基本原理》 割振の基本原理は、会員データから、当該リサの担当者として最もふさわしい会員を、一定の価値判断基準によって並べ替え(ソート)をし、その最上位にきた会員を当該リサの担当者として選択するというものである。選択された会員は、その段階で「非番日数」が0となるので、次のリサの担当者選択では下位に位置するということになる。 このように、リサ割振をコンピュータに処理させるということは、人間が、割振のための明確な基準を持っていなければならないことを意味する。これは、これまで手作業で勘を働かせながら行っていた処理を客観化することでもあった。この基準をどのように定立するのか、どのような基準を採用すれば、希望する割振結果が得られるのかが、実は重大な問題であった。 コンピュータは、ソートのための複数のキーによって、最も条件にあった会員を選択する。当該リサ登録者のなかで、非番日数の大きい人の中で、当該リサの割振回数の少ない人の中で、全部のリサの割振回数の少ない人の中で、持ち点の少ない人・・・などというように、各種のキー(基準)に従って、該当者を詰める。 (持ち点というのは、各リサの負担度に応じて点数を付け、割振られたリサの点数を当該会員の持ち点として合計し、割振の1つのキーとしていた)。 また、このような処理は、キーの優先順位にしたがって、固定的に行われてしまうので(当該キーの順位が厳格に守られる)、いくつかのキーをミックスする処理が出来にくい。そこで、数年目からはファジー処理と称して、ソートを二度別々に行って掛け合わせる(1度目のソートの上澄みを掬って、2度目のソートをかける)というような工夫もしたりした。 《徹夜作業》 93年度はちょうど私が副会長になった年でもあり、割振ソフトは、私の執行部就任の年から活躍することとなった。 しかしその後の割振ソフトの運命は多難であった。 マクロによるソフトは毎年、改良に改良を重ねていった。まず、割振のエンジン部分である担当者決定の仕組をいろいろに工夫した。ダブルブッキングしないことは当然として、前回当たった日から次の割振日まで(非番日数)、できれば近くない方がよい(均一化が理想)。 かといって、登録しているリサ(リーガルサービス)については、当該種別毎に登録者全員に可能な限り均一の回数が割振られなければならない(その後、多目とか少な目とかの希望を聞くようになってからは、更にこの希望が反映するような割振をする必要も生じた)。 ところが、同じリサに登録している会員の中にも、他の多くの種類のリサに登録している会員と種類の少ない会員とがいる。当然、非番日数には大きな違いが出る。にもかかわらず当該リサの割振回数を均一にするためにはどうすれば良いか。割振回数を均一にすると、両者の非番日数には大きな違いが出る。非番日数の調整を優先にすると割振回数にひずみが出る。このバランスの調整がオオゴトであった。 更に、義務制である各地の自治体相談を、それぞれどの地区の会員に担当してもらうべきなのかも、増えてきた自治体相談の種類・回数と、各地区の会員の人数の推移などを見ながら修正したりしなければならない。 それ以前に、200人もの会員の登録データを誤りなくコンピュータに入力する作業も結構大変である。入力データの微妙な違いもコンピュータは正確に(偏執的なまでに厳格に)判断するので、ちょっとした違い(文字の細かい属性まで)が割振結果の大きな狂いとなって現れてしまう。だから割振後は、結果の妥当性を検証し、問題ある場合にその原因を究明して対策を考える修正作業に時間がかかった。 検証用に、会員ごとの割振回数をチェックするための仕掛けや、非番日数をチェックするための仕掛け、リサごとにどの会員にどのように割振られたのかをチェックし、把握するための仕掛けなども独自に作り上げなければならない。 もとより、何千件にもおよぶリサのひとつひとつを正確に入力する作業も同時併行でしなければならない。省力化と入力の誤りの発見のために、月日の入力によって自動的に曜日を入れるような仕掛も作った。 このようにしてチェックをした結果、不具合を発見する度に、原因究明と改良(修正)作業を行い、改めてマクロを動かすのである。 マクロを動かすと、1件の割振に数秒、数千件の割振が終了するまでに何時間かがかかるのである。その後にこの結果をチェックして、上記のような修正を加えて改めてマクロを動かすのであるから、この作業は何日にもわたって続くことになる。事務所では仕事があるので、このような作業は帰宅後に行うことになるが、当然、徹夜のような作業が何日も続くことになる(マクロが動いている何時間かの間に仮眠をとり、終了予定時間に目覚ましを鳴らして、作業を続けた)。 《代われないという重大問題》 このようにして、毎年のリサ割振作業が行われた。 その後、この作業には、割振ったものを各会員ごとに担当部分を印刷して配布する作業が加わったが(例のフクロウの絵がついたもの)、一連の割振作業の結果をどのように会員ごとに印刷すべきか――もちろん一々手作業でやるのではなく、どのように自動でやらせるのかも、一応、頭をひねる問題であった。 一方、法律相談センターが各地に作られ、郵貯相談が加わり(前記のとおり次年度から公社化に伴ってなくなったが)、当番も国選も割振回数(1日の待機者数)が増え、割振のコマ数は何倍にも増えていった。また会員数もどんどん増えていった。会員数の増大は、ソート範囲の拡大につながるし、コマ数の増大は作業の増大にそのままつながる。ソフトはどんどん重たくなっていった。 アプリケーションソフトのバージョンアップによってマクロも見直した。割振時間の短縮のためには、速いPCが出ればどうしても買いたくなった。ただし、PCが速くなった分、いい気になってより複雑な処理を要求しがちなので、結局、やはりどうしても時間がかかることになる。 多目少なめなどの要求や、担当種の多寡による非番日数の調整のために、各種の係数を使えるようにしたため、ソフトはどんどん重たくなっていった。 このように問題は色々あった。 しかし、最大の問題点は、これらを市川が1人でやってきたという点にあった。 他の人がさぼったのではなく、マクロを含めたソフト全体を作ったのが市川であったため、市川以外にいじれない状態になっていたのである。 これを打開するために、A424枚の操作マニュアルを書きあげるとともに、コンピュータ委員会で、一度、このソフトの勉強会を企画したことがあったが、すぐに挫折してしまった。そのため、結局、その後も市川が担当することとなってしまったのである。 もちろん、このような状況は極めて異常であり、何よりも割振作業の公正らしさに問題を生じる。割振作業の公正らしさが担保されなければ、義務制のリーガルサービスの担当根拠が崩壊する。そのため、割振結果について、誰でも見ることが出来るように「日程順」「会員別」「リサ別」の全割振結果を公表してサロンに常備したり、会員への割振結果一覧(会員全体の割振結果の回数=数字=を一覧できるもの)を配布したりした。更に先年からは、これらを各観点から分析した「*年度割振結果について」というペーパーも配布するようにしている。 しかし、これらは抜本的な解決にはほど遠い。 仮に市川が会員をやめてしまったとしたら(死亡・懲戒)、直ちに動かなくなる。 というよりも、やはり特定の会員に依拠するような態勢は、弁護士会のシステムとして極めて不健全である。コンピュータ委員会での勉強会(当時)のときから、市川の持論は《事務局が全員扱えること、複数の会員(少なくとも3名以上)がソフトの中身を理解し、事務局による割振作業をチェックすることができること》という点にあった。 《事務局と法律相談センターの熱意》 このような経緯を経て、冒頭の割振研修の実施となったのである。 実は、ここ2年ばかりは、リーガルサービスの入力作業は事務局にお願いしてきた。しかし、これまではソフトの仕組み原理や使用法、会員データの入力や修正方法などは事務局対象には全く研修などもなかったのである。これを抜本的に改めた。 量的にも種類的にもリサの中心は法律相談関係にあったこともあり、法律相談センターがこの割振に責任を持つこととし、3人の担当者を新たに選出した。石井慎一・神定大・横井快太の各委員である。 これに事務局全員を対象として研修が行われた(松戸でも割振作業を自動化したいということなので松戸の事務局にも参加していただいた)。 原理から実際の割振の仕組み、リサデータや会員データの入力方法などの研修を経て、11月からは次年度の割振作業を実際に全員で行う中での実践的な研修会とした。 またソフトに次年度のデータが入ってからは、これを研修参加者全員に配布し、各人が自分のコンピュータを使ってマクロを動かした(もちろん、割振結果はどのコンピュータを使っても同一となる)。どんどんいろいろなダメが出され、割振のバージョンを上げていった(不都合・不具合を発見しながら、どんどん修正を重ねることをバージョンアップと勝手に呼んでいる)。Aから始まり、B・C・D・・・と上がり、最終的にはIまで行った(少なくともマクロを9回は動かした計算になる。実際にはもっとだが)。もうミスは大丈夫だろうという判断と、時間切れの両方から、このバージョンで確定とし、印刷して会員に配布した(実際には、その後に、65歳以上の会員から、自分は義務制の相談などは登録した覚えがないとの指摘を受けたため、やむを得ず当該会員の分を法律相談センター委員で分担した。実は、このような登録連絡の手違いなどから、配布後に担当できないとの申し出をいただくことが毎年あった。そのようなときは、仕方なく市川が代わりに担当したり、法律相談センター委員にお願いして担当してもらったりして処理してきた)。 したがって、次年度のリサ割振は、この研修会参加者全員の目の前で行われた作業である。 会員データやリサデータが入ったソフトは、データ量が大きくて、フロッピーディスクには入らない。そのため、データの受け渡しにはCD−Rを使う他、重たいことを覚悟でメールも使った(ブロードバンドに入っていない会員は苦労された筈である。弁護士会も、この段階ではブロードバンドに対応していなかった)。また、割振結果の不具合の指摘や疑問などをリアルタイムで話し合うために、昨年12月には専用のメーリングリストも開設した(短期間ではあったが、極めて有効に活用された)。 このようにして研修を兼ねて実際の割振作業をしてみたが、参加者は、何とかなるという大きな自信を付けていただいたに違いない。市川としても、今回の割振作業は、精神的にも肉体的にも、例年とは比較にならないくらい楽だった。また、複数で議論しながら、バージョンアップする作業も意外と楽しい(ひとりだとメゲてくる)。 そしてようやく千葉県弁護士会のこの問題は、ある種の危機を脱しつつあるのだと、ほっとした気持ちになれたのである。 《エピローグ》 余談だが、96年末、日弁連コンピュータ委員会主催のソフトコンテストがクレオで開かれることとなり、なぜか千葉県弁護士会の割振ソフトを発表することになった(日弁連コンピュータ委員会から要請があった)。 業務に役立つソフトのコンテストという触れ込みだったので、「このソフトは弁護士業務にはちっとも役立ちないし、年に1度しか使われませんが」として紹介したことを思い出す。そして、どういう基準か、「役立つソフト賞」という賞をいただいた(ちなみに賞状だけで、賞品も記念品もなかったが)。 当時、二弁でウン百万円出して割振ソフトを特注したが使い物にならないとか、埼玉でもソフトで苦労しているなどの話を聞いていたが、その後、各会でどのように処理しているのか、聞いていない。市川のこのソフト自体は、いくらかヒキがあったので、マニュアルとともにいくつかの会にお送りしたりしたことがあったが、正直、ソフトとマニュアルをにらめっこしても、決して使えないに違いない。 この点、当会が行ったような研修会は、この問題を解決する唯一の方法であると思っている。 (千葉県弁護士会会報『槇』2003.4.1発行所収) |
リーガルサービスとは、自治体の無料法律相談当番や国選事件当番、当番弁護士、各地の法律相談センター当番などを指し、千葉県弁護士会では、これを会員に対して、次年度1年分を予め割振ります。 |